千葉美羽|紙蝶番における合差の重要性 ー洛中洛外図屏風の応急修理を通してー
宮城県出身
杉山恵助ゼミ
屏風は、木材で骨組みを作り、紙を幾枚も重ねて作成された下張りパネルを紙蝶番によって繋ぎ合わせ、折りたためるようにしたものである。屏風の作成や修理において、パネルを繋ぎ合わせる際には、合差(あいす)という板状の道具をパネル間に挿む。合差を挿むことで蝶番の紙が糊の水分によって収縮することを防ぎ、合差によって生まれた隙間が屏風を360°展開可能にする。装潢文化財の修理において、修理に関する情報の多くは口頭伝達により継承されている為詳細な資料は少ない。その中でもこの合差に関して明記された文献は極めて少なく、合差の厚みに関する情報も明確なものが存在しない。そこで、本研究では合差の厚みを変えた屏風のサンプルを作成し、比較することで合差の明確な厚みや、合差の重要性を明らかにすることを目的とした。
比較では、文献調査をもとに合差の厚みを0mmから3mmまで1mm間隔で計4種類の合差を用いて屏風のサンプルを作成した。用いた合差の厚みによって屏風のパネル間の幅が異なり、0mmの合差を用いたサンプルは完全には展開が不可能であった。また、実際の屏風に近い状態にするため?作成した屏風の縁に裂を回したところ、全てのサンプルにてパネル間の幅は更に狭まっていることが確認された。屏風に取り付ける縁等の厚みを考慮すると取り付ける縁の幅は1.5mm程が必要となるため、今回の比較でパネル間に1.6mmの幅が見られた2mm以上の合差の厚みが必要となることが分かった。しかし、合差が過度に厚い場合には屏風が破損する可能性があることが考えられ、今回の比較や文献の記述から、今回の比較における適切な合差の幅は2mm~3mmの間であることがわかった。しかし、参考文献の湯山勇著『表具問答』では??このボール紙の厚さは張るものの厚さにより測定して決めます??との記述があり?屏風の修理や作成における合差の厚みに明確で適当な唯一は存在しないことを述べている。屏風には絵が描かれた紙や縁、装飾等が作品などにより様々厚みや素材で施される。そのため、それらの素材に合わせ、都度適切な厚みが選択されなければならないということである。
本研究では、屏風の修理や作成における合差の厚みに明確で適当なものは存在しないことが明らかとなったが、合差の厚みが変化することで屏風のパネル間の幅も変化することや、その幅が作品にとって適切でなければ屏風の機能性に支障をきたすというその重要性を明らかにすることができた。