[優秀賞]
福田藍梨|孵化-uka-
栃木県出身
シルクスクリーン
結城泰介 講師 評
生命とは何か。有史以来問い続けて来たが未だに人類はゼロから作り出す事が出来ない領域である。福田藍梨は「生命が誕生する瞬間は神秘的でありながら、一方で不気味さを孕んでいる」と言う。画面には様々な生き物が粘性を伴った液体に包まれつつ卵から孵り、この世に生命体として誕生した瞬間が描かれている。ややもすればグロテスクな表現に陥ってしまうが、福田の表現はその様ないやらしさは微塵も感じさせない。記号化されたモチーフのデザイン性と構成はこの世に生まれて来た全ての生き物に対する賛美と慈しむ作者の眼差しが込められており、背景のグラデーションや色彩は未知なる領域への不安や畏れの現れとなっている。
シルクスクリーン技法で刷り重ねられた線や面は清潔感やシャープさが備わり、作者の手から離れて客観性が生まれるこの間接技法だからこそ、神秘性と不気味さと言った二面性の同居が可能となった。四年間の版画研究の成果として相応しい作品である。