年の瀬に「初心」を
12月。師走。December. いよいよ本格的な冬が来て、大学も雪化粧をした。キリッとした空気を吸いながら、今年1年いろいろなことがあったなあ、と年の瀬らしく振り返ったりしている。
そこで今回の「かんがえるジュークボックス」では、年の瀬だからこそ「初心」を思い出すべく、イーグルスのレコードをかけましょう。というのは、わたしが洋楽というものに初めてこころ惹かれたのはザ?ビートルズでもザ?ローリング?ストーンズでもなく、イーグルス(Eagles)だからだ。彼らを初めて聴いたとき、なんだか厳しくてかっこいい世界があるんだな、と北国のぼんやりした中学1年生の少年(32年前のわたし)にもイーグルスは響いたのだ。
たとえば、バイアス(偏った見方や凝り固まった定説)を壊す鋭い視点がイーグルスの魅力のひとつだ。それに見事にマッチするドン?ヘンリーの渋い声。1976年のかの名曲「ホテル?カリフォルニア(Hotel California)」では、栄華を極めると思われていた大国アメリカは実は幻想で、その内部は病んでいることを、イーグルスはロック?アルバムの中で暴き出してみせた。同じように「ラスト?リゾート(Last Resort)」においては、アメリカ建国以来の歴史そのものが含む残虐性と欺瞞についての内省的な語りが圧巻だった。いつ聴いても初めて聴いたときの感動がよみがえる。
ユーモアを忘れずに
今回は年末年始の大盤振る舞い!A面とB面の両2曲をとりあげよう。これは1978年のシングルレコード。A面が「ふたりだけのクリスマス(Please Come Home for Christmas)」でB面は「ファンキー?ニュー?イヤー(Funky New Year)」というだけに、これはまさしく「年末年始レコード」だ。
イーグルスの社会批判の眼は鋭い。だが、イーグルスにはそれと同じくらいのユーモアがある。今回のレコードのジャケットの写真も例に漏れない。雪のホワイト?クリスマスではなく、プールサイドにクリスマスツリーを置いて水着姿でくつろいでいる。
厳しい視点にも愛とユーモアが必要だ。寒い冬にあたたかさが必要なように???、殺伐とした世の中に優しさが必要なように???。イーグルスのクリスマス?ソングおよび新年ソングには、鋭さと愛とユーモアが同居している。
冬は寒く白い雪と言うバイアス、クリスマスは幸福なひとときというバイアス、新年は決意新たに健康で迎えるというバイアス、これらを軽やかに壊すイーグルスのユーモアを楽しみたい。これはいわば大人の余裕のある世界だ。
【A面】ふたりだけのクリスマス
この「ふたりだけのクリスマス」は、チャールズ?ブラウンの1960年の曲のカバーである。クリスマスの楽しげなベルの音とは裏腹に、ぼくはひとりぼっちでさびしいな、という曲だ。
Bells will be ringing
鈴の音が鳴ると
The sad, sad news
悲しい知らせ
Oh what a Christmas to have the blues
なんというクリスマス 憂鬱を抱えるとは
My baby’s gone
あの人は去って
I have no friends
ぼくには友だちもいない
to wish me greetings once again
ぼくにまた挨拶を交わしてくれる友だちなんて
Choirs will be singing silent night
聖歌隊はきよしこの夜を歌い
Those Christmas carols by candle light
クリスマス?キャロルはろうそくの灯りのそばに
Please come home for Christmas
どうかクリスマスには戻ってきて
Please come home for Christmas
どうかクリスマスには戻ってきて
If not for Christmas, by new year’s night
クリスマスがダメだったら、新年の夜までには
この曲とブルー?クリスマスは、切ない系クリスマス?ソングのトップ2かもしれない。いじらしさが炸裂している。最後のスタンザでそれは頂点に達する。
Then won’t you tell me
そしたら どうか言ってほしい
You’ll never more roam
もうあちこち行かないと
Christmas and new year
クリスマス そして 新年には
will find you at home
あなたが家にいてくれれば
There’ll be no more sorrow,
悲しみも
no grief or pain
苦しみも痛みもなくなる
I’ll be happy
ぼくは幸せ
That it’s Christmas once again
そんなクリスマスをもう一度
この人が無事に「あなた」に会えたことを願うばかりだ。世の中、楽しいばかりのクリスマスではないことは承知していても、やっぱりクリスマスの幸福を願わずにいられない、という気持ちにさせる名曲である。
【B面】ファンキー?ニュー?イヤー
さて、クリスマスを楽しく愛する人と過ごそうとも、または、ひとりぼっちで過ごそうとも、あっという間に新年がやってくる。ターンテーブルのレコードをひっくり返してB面にすると、ファンキーな新年にふさわしい1曲が始まる。このレコードが発売されたのは1978年だから、当時の流行のディスコのダンスフロアで流れていたらピッタリだろうな、というサウンドがいま1周回ってかっこいい。
ニュー?イヤー!気分を一新して清々しい心身で新しい1年を迎えようではないか!と意気込んだはずが、二日酔いで具合の悪さが最高潮!という内容がこの「ファンキー?ニュー?イヤー」だ。
Went to a party just last night
昨夜はパーティに行ったんだ
Wanted to bring the year in right
スカッと新年を迎えようと思って
Woke up this morning, I don’t know how
今朝起きたが、どうやって起きたかはわからねえ
Last night I was a happy man, but the way I feel right now
昨夜はイケてるオレだった、今の気分はこうだ
It’s going to be a funky new year
ファンキーな新年になりそうだ
Got to be a funky new year
ファンキーな新年になるぜ
“funky”という語は、カッコいいとか、ノリノリな感じを表す言葉として使われる。しかし、語源をたどれば、かび臭い、ダサい、最悪と言う意味もある。この人の新年の過ごし方に当てはめて「ファンキー」の意味を汲みとれば、「ハチャメチャ」という意味になりましょうか。とにかく、飲み過ぎてグダグダな新年、それは「ファンキー」だ。曲は次のようにつづく。
Can’t remember when I ever felt worse
こんな具合が悪いことがこれまであったっけ
Nothing matters and everything hurts
とにかくなんでもかんでも具合が悪いぜ
They were passing ‘round the bottle, made me feel brand new
酒のボトルをみんなで回し飲みして 気分は一新
Trouble with the new man-he wants a hit too
気分一新したはずのオレなのに酔っ払いたくなっちまう
Hit me
酒をくれ
“Trouble with the new man(新しい男とのトラブル)”とは、新年で気持ちを新たにした自分とのトラブルのことである。つまり、さっそくパーティの流れにまかせて「初心」を秒で忘れる自分を自虐的に歌っているのだ。ちなみに、“Hit me”とは「わたしを叩け」と直訳できるが、「酒をオレにくれ」という意味の俗語である。
どうぞみなさま、イーグルスのこの歌のようなファンキーな…というよりも、健やかな新年をお迎えください。
よいお年を
今年の3月から始まったこのコラム、お付き合いいただきましてありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
大学の亀山研究室宛に年賀状をお送りいただけましたら、御守り効果を発揮(感じ方には個人差があります)する特製「かんがえるジュークボックスからの年賀状」をお返しいたします。
それではまた。次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
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第1回 わたしたちは輝き続ける~ジョンとヨーコの巻
第2回 バス停と最新恋愛事情~ザ?ホリーズの巻
第3回 孤独と神と五月病~ギルバート?オサリバンの巻
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亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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