大学院工芸領域1年の近藤七彩(こんどう?ななせ)さんは、2020年9月10日~25日に開催された「アートアワードトーキョー丸の内 2020」で、フランス大使館賞を受賞しました。
近藤さんの工芸作品には、古い家具や使用されなくなった部品などをドラスティックに生まれ変わらせる魅力があります。今回のインタビューでは、工芸の捉え方に独特の美意識を持つ近藤さんに作品制作への思いをお聞きしました。
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古い家具や道具からのインスピレーション
――古い物や、使われなくなった物への魅力は、どんなシーンで感じますか?
リサイクルショップなどです。もともと古いものが好きだったのでリサイクルショップにはよく行っていました。そこにある一つ一つは雑多なものですが、それを制作した人のことを想像して楽しんだりするので、私にとってはインスピレーションをもらえる刺激的な場所です。
私が作った作品も、長い時間をかけて私の物ではなくなり、最終的に雑多なものと一緒にリサイクルショップに並ぶ風景を想像するのが好きだからかもしれません。
物は、誰かが作り、人が使い、不要なものとして売られていく循環が繰り返されるうちに経緯や歴史が曖昧になっていきます。私の作品もそうした循環の一部だと思っていますし、作家の存在感が薄れて物だけが残った時、作品の本当の価値が問われると考えています。もちろん、自分が生きている間は、自分が作ったことは自己主張していきますけど(笑)、物は私よりも長生きすると思うので、その時に面白いものとして存在させたいという思いがあります。
違和感と反骨心から生まれた感覚
――近藤さんの作品は、金属を叩いて形をつくるというものとは少し違いますね
工芸を学ぶほどに、正統な工芸と言われているものが、製材された工業製品を溶かしたり叩いたりしながら作品を作っていることに違和感と反骨心を持つようになりました。
そして、工業製品として製材された直線や正円など、西洋的ともとれる人工的な工業製品に対して美を感じていることに気が付いた時から、必要以上に素材を叩かなくなりました。私にとって既に美しいと感じるものをめちゃくちゃにしたくないからなのかもしれません。
循環の中に「新規性」を注入する
――3年生の時に、学内で選抜されたプロジェクト「T.I.P.」のメンバーに選ばれましたが、どんなことを学びましたか?
私以外のメンバーは平面作品を作る人たちで、自分の身体よりも大きなサイズで絵を描いていたので、それが大きな刺激になりました。見上げるような大きな絵画を壁一面に展示しているメンバーに対して、自分はその時机に向かって小さな作品を作っている状態だったので、スケール感で負けたくないという対抗意識から、空間的に自分の作品がどう見えるのかを意識したり、離れた位置から自分の作品を俯瞰して見るようになりました。
――古いものと新しい素材を組み合わせるアイデアは、どんなきっかけから生まれたのですか?
工芸コース4年生の時に、上山市の武家屋敷「旧曽我部家」(市指定文化財)を会場にした展覧会「上山城下町アート」で作品を制作したことが転機だったと思います。それまでは、鉄骨を溶接したイスなどの遊具のような作品が多かったのですが、その展覧会が「部屋に作品を合わせる」という条件だったので、初めて古い家具を使った作品を制作しました。?
建築物からインスピレーションを得ることもあります。今は、台湾の風景です。日本では、見せたくない配管などは構造体の中に隠しますが、台湾でそれらがまる見えの風景を見た時に、雑多な物も誰かが作りあげた作品に見えて面白いと感じました。
ポストモダンのデザイン建築や鉄骨の橋とかも好きですし、身近なところではアトリエ(溶接場)の天井を見上げて、ガス管の配管がかっこいいなあとか思ったりしています(笑)。
――工業的なものが好きなのですね
工業的なものでも誰かが作った作品として見えているので、ネジの留め方ひとつにも作業した人の思考を感じます。まるで、自分の身体が小さくなって精密に作られたミニチュアの建物を見ているような感覚で実際の建物を見つめていることがあります。自分にしかつくれない形をつくろうと思って奮闘するより、素材を組み合わせて構成する形、道具から生み出される形をそのまま使うほうが、私の個性やオリジナリティが出てくるように思います。
――作品で表現したいのはどんな世界観ですか?
物の循環の中に、「新規性を注入する」作業だと思っています。現代の日本に存在する「日本らしい伝統的なもの」と、私たちの「ライフラインを構築する構造体」との融合です。
どんなに良い物でも、使っているうちに様々な理由で不要になることがあって、売られたり譲られたりして次の持ち主に渡り、新しい場所でまた使われることがあります。私の作品もそうした循環の一部だということを感じてもらえると思っています。
――「アートアワードトウキョウ丸の内 2020」でのフランス大使館賞の受賞は、どのように受け止めましたか?
私は子どもの頃、時々遊びに行っていた祖母の家の古い家具から日本の美のインパクトを感じていたのですが、フランスの方にもそんな距離感から、日本の工芸の美や面白さを感じていただけたのではないかと思っています。日本人の生活の中に馴染みすぎて当たり前になってしまったものを自分なりに昇華した作品を、新鮮に受け止めていただけたのだと思います。
――今後、どんなことに挑戦したいですか?
これまでの制作では、題材や素材を感覚的に選んできましたが、このような賞をいただいたことで一つの作品の世界観を確立できたと思っています。今後は、一つ一つの自分の行動を分析して制作時のルールを確立し、自分の作品として胸を張れるような制作プロセスとして深めたいと思っています。
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2021年2月10日(水)~3月5日(金)には、「新宿髙島屋10階美術画廊」でのグループ展、2020年2月27日(土)~3月21日(日)には、「アンスティチュ?フランセ東京」での個展が開催されます。ぜひこの機会に近藤さんの世界観に触れてみてはいかがでしょうか。
(取材:企画広報課?樋口)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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